ストレスとの付き合い方(その五)
前回ストレス耐性アップのために、瞑想やマインドフルネスに近い、日常生活で行える何かをヒントに、私個人のケースでオートバイに当てはめて紹介しました。
今回は、もう少し科学的に、どのようにしたら改善できるのかのヒントとして、弁証法的行動療法(以降DBT(Dialectical Behavior Therapy)と省略します)のコア・マインドフルネス・スキルの中の「把握(what)」スキルを取り上げたいと思います。
コア・マインドフルネス・スキルにたどり着いたキッカケ
人はストレスフルでメンタルヘルス的に悪い状況になると、自動思考という負のスパイラルに陥りやすいのですが(認知行動療法における自動思考についてコチラでわかりやすく解説されています)、いざ、これらの認知の歪み・思考のアンバランスを治そうとしてもそうそう簡単にはいきません。100種の科学的ストレス解消メソッドが記述された「超ストレス解消法」の著者鈴木祐氏も、著書の中で下記のように書かれておりました。
思考のアンバランスは、修正した時の効果が絶大
更に
残念ながら、思考のアンバランスには特効薬がありません
この言葉に端を発し、どのようにすれば解消できるだろうか?ということで、たまたま発見したものがこのDBTのコア・マインドフルネス・スキルです。
コア・マインドフルネス・スキルとは
コア・マインドフルネス・スキルとは、DBTの中核となるマインドフルネススキルとなります。このDBTは、米国ワシントン大学のマーシャ・リネハンにより開発されたもの(彼女が凄まじい障害を乗り越えて開発されたことに感動します。興味を持たれた方はコチラに詳しく紹介されています)で、認知行動療法の一つです。境界性パーソナリティ障害の治療法の一つとしても知られています。今回はコア・マインドフルネス・スキルの中の「把握(what)」スキルを紹介していきます。
三つの心の状態
DBTでは下記三つの心の状態が提示されています。
- 「理性的な心」(reasonable mind)
- 「感情的な心」(emotion mind)
- 「賢い心」(wise mind)
文字通り、「理性的な心」は論理的で計画的で冷静である心で、「感情的な心」は反対的に論理的思考が困難で感情に支配された心となるのと合わせてエネルギー量も感情の状態と一致して大きくなるものと考えられます。「理性」と「感情」なかなか程よくバランスできず葛藤や衝突の要因とも感じます。この二つの心を超えるものとして「賢い心」が定義されています。
賢い心とは
賢い心とは、「理性的な心」と「感情的な心」が統合して、それらを超えたもので直感的知識が加わるものとされています(なんだか面白そうですね)。少しそれますが、個人的に大好きな愛読書「選択の科学」(シーナ・アイエンガー著)でも直感力に言及されています(「科学」と言っているのに直感ですが原題は「The Art of Choosing」なので問題ないかと)
賢い心に到達するために
賢い心に到達するための手段として、マインドフルネスの三つの「把握(what)」スキルと、三つの「対処(how)」スキルがあります。今回はこのうちの「把握(what)」スキルにフォーカスします。というのも、私がここにたどり着いた一因が、ストレス解消のためのストレスを元から断つ方法の一つがラベリング(他人からも自分自身からも、呪縛のストレス要因としての認知バイアス)からの解放であったからです。
三つの「把握(what)」スキル
マインドフルネスの「把握(what)」スキルには三つのスキルがあります。観察すること、描写すること、関与することの三つです。この説明には興味深い内容が書かれており、「その目標は、意識しながら関与する生活様式を育むことである。」と、そして、「意識なしでの関与とは、衝動と気分に依存している行動の特徴である」と、思わずハッとしてしまいます。
観察
今あるその瞬間に起きている苦しいこと楽しいこと、その他起きていることに注意を払い意識的に経験すること、そのためには、それらの出来事から一歩下がって観察する必要があります。感じること、考えること、それらのそのものを観察する能力が求められていると考えられます。また、過ぎ去った過去でもなく、これからやってくる未来でもなく、今現在に対しての観察です。「その瞬間を経験する(感じる・考える)」ことは禅に通じる部分とも考えられるかと思います。
描写
思考と事実を分けて言葉で描写すること、と解釈するとわかりやすいと感じました。「今日はテストの日だ」(事実)+「今日は体調が悪い」(事実)が、「今日のテストは失敗するだろう」転じて「何をやってもだめだろう」とはならないわけで、本人以外の人からは「そうはならないだろう」と考えても当の本人は深刻です。こうした時に、思考と事実を分けて言葉にすることで、客観的に把握できるのではないかと考えられます。体調が悪いことはマイナス要素ですが、イコール失敗ではないことを、言葉で描写すれば悪い思考の連鎖に気づくのではないかということで、ここでのポイントは思考と事実を混同しないこと、そのことを正確に言語表現することだと考えました。
関与
自意識的にならずに関与する能力(難しいですね、、)。関与には無思慮(mindless)の関与と、注意深い関与(mindful)の関与が説明されています。注意深い関与の例として、スキルの高い運動選手が慎重に注意深く、自意識はなく、要求課題にスムーズに柔軟性をもって反応できることと説明されています。
スポーツへの応用
これらの解説を読んで真っ先に連想したのが、今回のオリンピックで金メダルを獲得したやり投げの北口榛花選手です。オリンピック前のテレビ取材を実際に見たのですが、日本で練習している北口選手が、チェコのコーチに動画を送りながらフォームをチェックしている光景を思い出しました。自分自身でのフォームチェックの後に、コーチのチェックを聞き、そしてフォーム改善の過程はまさに、描写・観察・関与ではないかと感じました。ここでのポイントは、コーチからの観察と自分自身の描写の擦り合わせではないかとも感じました。当たり前のように見えて、この各プロセスが金メダルにつながったのではと感じました。
北口選手のお母様(もと実業団のスポーツ選手)は、彼女がやり投げ選手になることに反対されていたそうです。お母様ご自身は、ほとんど試合にも出られず、挫折した経験から、“自分と同じ道には、進んでほしくない”と願っていたそうです。彼女はそれでもやり投げの道に進むことを覚悟して、乗り越えられた事もこうしたスキルが活かされたのではないかと感じています。
自分自身を振り返ると
観察・描写・関与、そして思考のアンバランスからの解放、こうした目線で自分を振り返るといろいろ足りていなかったなぁと思い出します。
いくつか例を挙げてみます。
幼少期の親戚や他人からの評価で、〇〇ちゃんは勉強はできるけど、という言葉です。「けど」という言葉を今振り返ると「なんでやねん」です。要するに「運動は苦手」というレッテルです。その逆の言葉、〇〇ちゃんは運動はできるけど、という言葉も同様です。こうした言葉は負の呪縛だと強く感じますし、子どものメンタルではなかなかこうしたことから解放されることは困難です。これらの評価は悪意がないものとは思うのですが、結果としてはとてもよろしくないと思います。ちょっと書こうか悩んだのですが、大人の世界になるとこうしたレッテル貼り・ラベリングをやたらする人がいますが、こういう方とのお付き合いは要注意です。参考までですが、小学校時代に「運動は苦手」とレッテルを貼られた私は、トレーニングの結果、中学時代は少なくとも長距離では上位(1500m4分台)でした。
また、自分自身で取り込んでしまう呪縛もあります。こうした客観性の欠如した評価と思考が合体してしまうとなかなか厄介です。
まとめ
ストレスは思考のアンバランスに起因することが多く、思考のアンバランスを解消する方法として、まずは現状把握のためのスキルを考えてみる。
DBTの三つの「把握」スキル
-
観察
-
描写
-
関与
最後に
DBTはプロの専門家が見る領域かもしれません。しかし、ストレス解消も人それぞれに合ったものがあるはず。その観点では、まず現状把握から始めてみることが良いのではないかと考え、そのヒントとして取り上げてみました。こうした現状把握のヒントとしてB-Brainもご活用いただければと思います。
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