APCDA 2023 カンファレンス@カザフスタン参加レポート

毎年会員のいる国の中からホスト国/地域を決め、年次大会を開催しているAPCDA。コロナの関係で2020年から2022年まではバーチャル開催となりましたが、今年2023年はカザフスタン現地開催とバーチャルのハイブリッド形式で行われました。今回、5月16日から19日まで行われたカザフスタン・アスタナにおける大会の様子をレポートします。

はじめてのカザフスタン

今回の大会テーマは“New Look at Careers in a Rapidly Changing World(激変する世界におけるキャリアの新たな展望)”。コロナが落ち着いてから最初の大会にふさわしいテーマを、理事長として私が決めさせていただきました。急速に変化する世界において、キャリア開発は適応可能であるべきで、さまざまなキャリアの変化に適応するスキルを柔軟に磨くことができれば生き残ることができる…そんな思いを込めて決定したものです。

当日は10か国から約80名の参加者がカザフスタンに集いました。

個人的には初めてのカザフスタンでした。到着後初めての朝を迎えたとき、地平線が見えるほどの空の広さに驚きました。21時過ぎてもまだ明るく、昼がとても長いことも新鮮でした。アスタナは北緯約50度と緯度が高い(アメリカ・カナダの国境、ロンドン、パリ、キーウ、樺太、ニューファンドランド島などと同位置)ということを実感しました。また、大陸性気候であるアスタナは、気温の日較差が大きい(日中は25度近くまで上がり、夜は3-4℃に下がるのでそれなりの服装が必要)のも驚きでした。

会場編

今回の会場となったのは、2010年に創立されたナザルバエフ大学。

当日は10か国から約80名の参加者がカザフスタンに集いました(日本からは私含め3名の参加)。
会場の様子はオンラインで中継され、28か国から約300名、学生から大学教授まで幅広い方に参加いただきました。時差の関係でアメリカ・カナダなどの皆さんは参加が厳しかったと思いますが、それでもこれだけ多くの皆さんにご参加いただけて嬉しかったです。ハイブリッド開催の良さですね。

(MCを担当する筆者)

 

5月17日のオープニングセレモニーは、学長の勝茂夫さん(元世界銀行副総裁)からの挨拶で幕を開けました。周辺国で起きている不幸な出来事により、高度な教育を受けたい人々がカザフスタンを目指すようになったという話に考えさせられました。

勝茂夫さんに紹介いただき登場された最初のキーノートスピーカーは、Minister of Science and Higher Education of Kazakhstan(カザフスタン科学・高等教育相)のSayasat Nurbekさん。当日まで講演頂けるか確定しないほど大変お忙しい方なのですが、約20分という時間を捻出いただき、APCDAのために講演をしていただけました。
講演テーマは「カザフスタンおよび将来のトレンドについて」。2023年から2029年にかけてのカザフスタン高等教育における重要な優先課題として、各地域におけるアカデミック・モビリティ・ハブの創設を挙げられていました。dual degree/joint degree programを提供する海外の一流大学の支店を開設する予定とのこと。
Nurbekさんのあとを受け、急遽ナザルバエフ大学のVice Provost、Loretta O'Donnellさんにも講演をいただくことができました。雇用市場の変化とテクノロジーがキャリアに与える影響、学生が必要とする伝達可能なスキル、大学と雇用者のコラボレーションなどのカザフスタンにおけるキャリアの優先順位と課題、さらにナザルバエフ大学の卒業生が、生涯学習と専門能力の開発を意識しながら新たな需要の高いスキルを身につけ、不安定な労働市場に対処している現状をお話いただきました。


(左から、Loretta O'Donnellさん、Sayasat Nurbekさん、勝茂夫さん、筆者)


Awards Ceremonyで14か国のスカラー、および6つのアワードに選ばれた皆さんを、大学現地およびバーチャルにて表彰した後、イギリスからいらしていただいたTristram Hooleyさんによる基調講演が行われました。テーマは「Predicting the Future in Turbulent Times: The Role of Career Development」。その後3名のパネリストによるAIとキャリア開発に関するパネルディスカッションを行い、1日目のカンファレンスは終了となりました。

(関係者の皆さんで記念撮影)

 

翌18日はアメリカのMarie Zimenoffさんの基調講演「Working in 2035」で幕を開けました。本大会のテーマにも非常にマッチし、これからの時代を生きる私たちキャリアカウンセラーが避けることのできないであろう内容だと感じました。

基調講演の後は、4名のパネリストによる「Future Trends and the Workplace」をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。2名が現地(ナザルバエフ大学)から、2名がリモート参加という形式で実施され、それぞれの国の現状シェアと質疑応答がなされ興味深かったです。

バスツアー編

現地開催の醍醐味のひとつは、会場近隣の観光によってホスト国の文化・歴史的な背景に触れられることにもあるでしょう。今回の開催都市、アスタナ周辺観光ツアーの様子をご紹介します。

アスタナシティー観光

アスタナには実に多くの文化的建造物があることを知りました。
たとえば、生命の樹を象徴するバイテレク記念碑(Bayterek Tower)。
アスタナのシンボルとして建てられ、カザフスタンの紙幣にも採用されています。直径22メートルの金色の球が頂上にある97メートルの石碑。天気にも恵まれ、展望台ではアスタナ市内の絶景を見渡す事ができました。
最上部(高さ97m。遷都された1997年に由来)にはナザルバエフ初代大統領の手形の置物があり、私たちも手形に触れながら記念撮影をしました。
バイテレク記念碑に隣接している、ピラミッド型のThe Palace of Peace and Reconciliation(平和と協定の宮殿)というカルチャーセンターにも足を運びました。

ちなみに、カザフスタンの現首都・アスタナの都市設計を一手に担ったのは、日本を代表する建築士・故黒川紀章さんなので、同じ日本人としてなんだか嬉しい気持ちになりました。
黒川さんはゴッホ美術館やクアラルンプール国際空港など幅広く手掛けられている言わずと知れた巨匠です。
アスタナの都市計画は2030年まで続く予定とのことで、そのころどのような都市になっているか興味深くなりました。

ALZHIR博物館&グランドモスク訪問

アスタナから30㎞ほど西にいったところにある、ALZHIR(アルジール)と呼ばれるソ連時代最大の女性収容所跡地にある博物館を訪問しました。
政治的弾圧による犠牲者の記念館とも呼ばれ、1930年代には8000人近くの女性がこの地で命を落としたのだそうです。
壁面に粛正の歴史の断片が飾られている12mにも及ぶトンネルを下り、博物館に入ります。カザフスタンにおける民族粛正に関する歴史資料が多く陳列されています。
「酷寒のアルジール(The Fierce Cold of ALZHIR)」という20分程のドキュメンタリー映像からは、収監者やその家族へのインタビューをみることができます。
収監された母親にあてた子供からの励ましの手紙には心が締め付けられます。スターリンによる粛正の時代に生きた女性たちの絶望と希望など、様々な感情が伝わってきます。
こういう博物館の存在に、新しい都市を建設しながらも、悲しい歴史を忘れない努力を感じました。

 

アスタナ市内に戻ってからは、アジア最大のモスクであるグランドモスクを見学しました。2022年8月に完成したばかりとのこと。


入館時、女性はスカーフをかぶるなどして頭髪や素肌を隠します(下駄箱横にガウンがあったので利用しました)。モスクは土足禁止なので、素足で絨毯にあがります。天井はとてもきれいな幾何学模様の装飾がなされていました。
カザフスタンには様々な宗教が存在しますが、7割がイスラム教とのこと(なので聖者の像はなし)。参加者の皆さんが写真撮影に熱中するほど、モスク内部はもちろんのこと、白亜のモスクと澄み渡る青空のコントラストがとても美しかったのが印象的でした。

まとめ

改めて、はじめての現地とオンライン、ハイブリッド形式でのカンファレンスをなんとか無事に終えられて、理事長としてホッとしました。ご協力いただけた皆様、参加いただいた皆様に心から感謝したいと思います。
個人的には、日本人として、日本人の学長が作り上げ、多くの優秀なスタッフと学生が集うナザルバエフ大学にて現地開催できたこと、このご縁を嬉しく思っています。
勝学長とはカンファレンス開始前に個別に面談の時間を頂き、APCDAの活動にエールをいただきました。この活動がもっと大きな輪になるように、これからも尽力できればと思っています。


(勝学長とのお写真)